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感想文/小説『蝉しぐれ』 | 04.06.07 (月)

『蝉しぐれ』

『蝉しぐれ』
著者: 藤沢 周平
出版: 文芸春秋(文春文庫)
税込価格: \660 (本体: \629)
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2003年のドラマ(NHK金曜時代劇)が面白かったので原作を図書館から借りて読んでみた。 amazonで検索して知ったが、作者は『たそがれ清兵衛』の原作者でもあるのか。 清兵衛は未見だが、季節感の描写が巧い作家なのだろうか?。

ジャンルで言えば、少年(青年)の成長物。 さほど裕福でもない武士の家に育った牧文四郎は、 隣家の娘ふくに淡い恋心のような感情を抱いていた。

ところがある日、 文四郎の尊敬してやまぬ父が藩の派閥争いに巻き込まれ叛逆者として断罪されてしまう。 罪人の子として生きるのを強いられた文四郎。 一方ふくは藩主の江戸屋敷での奥勤めが決まり、 二人は互いの胸の内を打ち明ける事もなく離れ離れになってしまう。

歳月は流れ、文四郎は自身の鬱屈を剣の修業にぶつけ、藩内で十指に入るほどの剣士に成長していた。 そんな文四郎にある日、とんでもない命令が下った。 殿の妾となったふくの嫡子を拉致してこいというのだ。

父が断罪された際に、かろうじて取り潰しをまぬがれた牧家である。 命に従わねば取り潰しは必須であった。 しかし正妻派である上司が、 邪魔な妾の子を殺しその罪を自分になすりつけるための罠であることもまた明白であった。 進退窮まった文四郎は…という話。

淡い初恋、告白にすら至らないもどかしさがたまらない序盤が良い。

罪人の子と差別されるわ、 好きだったあの子が殿の妾に!ガーン!と失恋するわで、 反動から剣の修業に明け暮れ、師匠から「秘剣・村雨」を伝授されるまでに至る中盤も良い。

伏線がつながり、すべてが大逆転するカタルシス溢れる終盤が良い。

と、大変面白く読めた。評価が甘いのはドラマのおかげで好印象を持って読めたのと、 自分が時代小説をほとんど読んだことがないから読者として「スレてない」からだろう。

最後の方の、文四郎に刺客が放たれるくだりは蛇足だったような。

あと、ライバルが多すぎ。 物語中で最重要のライバルに位置するのは犬養兵馬なのだろうが、 兵馬が主人公に勝つのは初顔合わせの時だけだし。 最強の敵であった興津新之丞は、中盤の御前試合以外ではほとんど物語にからんでこないし。 もうちっとなんとかならなかったのか。

読後、ドラマはかなり原作に忠実だったことがわかった。 作中でさほど深くは描写されていない「秘剣・村雨」を映像化するのは大変だっただろう。

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