近世大名は城下を迷路化なんてしなかった_バナー



模擬本丸御殿という類を見ないアプローチ 播磨国 龍野城(兵庫県たつの市)

ええよ~ : 1

龍野城

訪問日 : 2025-01-04

『識りたがり重豪』の取材の一環で、兵庫県たつの市の龍野城に行きました。

龍野城は室町期に龍野赤松氏が築いて、いろいろあった末に脇坂氏の居城になりました。

現存遺構は石垣しか残っていません。

城マニアではない世間一般の人気は近世城郭(石垣のある城)>中世山城(土の城)なので、県によっては石垣しか残ってなくても、その県の人気上位の城になることもあるんですが。

しかし兵庫県は近世城郭に絞っても、言うに及ばず世界遺産・姫路城があります。大人気の竹田城があります。 JRからよく見える明石城があり、忠臣蔵バフのかかる赤穂城があり、名手・藤堂高虎が縄張りした篠山城があり、最古の模擬天守がそびえる洲本城(淡路国)だって兵庫県。

強力なライバルが多くて、せっかく石垣が残ってるのに埋もれちゃってるのが龍野城です。

しかし、櫓や御殿などが再建されており、これがなかなか良かったのでした。

見えたー!
龍野城

振り返るとこう。落ち着いた雰囲気でよいです。
龍野城

資料館は閉館中。まあそもそも予定に入れてなかったけど。
龍野城

現存以降の石垣も、まあ普通であって明石城とか篠山城に迫力で負けちゃいますね。
龍野城

龍野城はいったん破却された後、1672年に脇坂氏が5万3千石で入封して、城を再建してます。

もう天下泰平の時機なので、いわゆる中世城の麓の居館だけを再建したようなもんで、軍用の城というよりは政庁の陣屋という意味合いが強いのです。
あんまり戦闘を考慮していません。だから石垣もそんなに高くない。

5万3千石で願い譜代(のち正式な譜代)で幕閣を務めてる家柄なんだから、御三階櫓を作って天守の代用にしてもよさそうな家柄ですが、そういうことはどうやらやってなかったっぽいです。

1672年は江戸城天守が再建されなかった明暦の大火から 15 年後。
世間的に「いまどき天守? 役に立たんもの作ってどーすんの?」だったのかもしれませんね。

城門をパノラマ合成してみましたが、あんまりよろしくない合成の出来栄え。
龍野城

合成しない城門。家紋がかわいいですね
龍野城

1672 ともなれば、整形した石で隙間の無い石垣になりますね。龍野城では城門回りだけですが。
龍野城

城門以外はこんな感じ。それほど大きな鏡石ではないけれど笑い詰みで見栄えを意識しています。
龍野城

桝形はちょっと狭い感じ。
龍野城

明治から大正期には高等女学校がありました。きゃわわ。
龍野城

麓の居館であって、そんなに高さはないので眺望もそれなり。
龍野城

もう少し山に登れば淡路島とか見えて風光明媚らしいんですけどね。時間の都合で行きませんでした。

童謡・赤とんぼの町らしいゆるキャラ。あんまりゆるくはないか。。
龍野城

で、再建された本丸御殿。
龍野城

昭和に日本のあちこちで、存在してなかった天守や史実を無視した天守が建てられました。

龍野市(現・たつの市)は、ちょっと出遅れたのと、存在しなかった天守を作るのはいかがなものか的な分別があったんでしょうね。 単に模擬天守を作るだけの予算が無かっただけかもしれませんが。

しかし観光のために城址は整備したい。そこで天守ではなく本丸御殿を再建するというプランを選んだのでした。ワーワー、パチパチパチ。実に 1979 年。早い。御殿建築の再建の嚆矢です。

しかし、最初の一歩を踏み出す者は先達を参考にできません。
完璧な再建とは言えませんでした。
図面や古写真が残っていたわけではないのです。
再建された本丸御殿は、一次史料に基づくものではなく脇坂家の建立した寺院などを参考にした推定御殿建築であって、つまりこいつは復元ではなく「模擬本丸御殿」なのです。

なかなか無いですよ、模擬本丸御殿。唯一無二かもしんない。

龍野城再建本丸御殿の先駆者としての価値はいささかもゆるぎませんが、平成以降の「わりかし本格的な木造復元ブーム」以前の再建なので、若干、本格っぷりが落ちるようです。

でも、だからこそ肩の凝らない気楽さで鑑賞できます。
龍野城

1979 年に作られたわりには新築っぽい内観。リフォームしたんでしょうか?
龍野城

たつの市で面打ちが伝統工芸だとか、歴史的に能がさかんであったということはないみたいです。
龍野城

現代では地元の能楽師(?)の方がたつの市で能のイベントを毎年開催なされているようですが。

デジカメの性能が低くて激しく赤かぶり。
龍野城

腰反りが好きだなあとかあるけども、ジャンルとしてお城ほどはハマれなかったな>日本刀。
龍野城

え?山城の部分、残ってるの? しまった、それを見に行けるスケジュール立ててない!
龍野城

推定復元画。
龍野城

天守っぽいやぐらはさすがにやりすぎ推定な気がしますが、推定画の中でちょっとオチャメするくらい、理解できる。

立派な太鼓。
龍野城

ここも赤い絨毯のせいで赤かぶりしてしまった(これでもレタッチで赤みを減らしてます)。
龍野城

こういう天井、手計算で描きたくない。
龍野城

龍野城本丸御殿は模擬であるためか「本丸御殿と聞いて我々が連想するイメージ」に近いんですよね。 汎用性があります。マンガの背景に使いやすい「ちょうどいいあんばい」なのです。

現存御殿建築と言うと、まず二条城がありますが撮影不可のため利用が困難です。

川越城の本丸御殿は現存部分が玄関・大広間・家老詰め所であって、生活感がひかえめ。

掛川城の二の丸御殿は生活感はあるんですけど、逆に政庁っぽさが足りません。二の丸御殿なので。

川越城・掛川城とも、イメージとしての「御殿」に期待したい「きらびやかさ」に欠けるのです。現存の本物であるところに価値があるので、文句を言うのが筋違いなんですけど。

高知城のは残念ながら見ていません。

再建では熊本城のは見ましたが名古屋城のは見ていません。しかしこれらは大藩すぎて豪華すぎるという難点があります。 必要なのは江戸藩邸の参考になりそうな「そこそこ豪華だけど、居城の本丸御殿ほど予算はかかってない」くらいのちょうどよさなんですよ。

そのちょうどよさが、龍野城再建本丸御殿にはありました。助かる! サンキュー!

こういうの、すごく使い勝手がいい。
龍野城

はかどるわ~。
龍野城

これは現代の画家の描いた襖《ふすま》絵なので、勝手にマンガの背景に使うことはできません。
龍野城

デジカメがヘボなので残念写真だけど、まあ、しゃーない。
龍野城

赤じゅうたんはやめてほしい……

この襖《ふすま》の模様も、当時こんな襖だったわけではないと思うけど、アイデアであります。。
龍野城

『風雲児たち』に多く見られますけど「御殿の豪華な感じを出したいけど、襖《ふすま》絵をいちいち描いていられないので、派手めなトーンで処理する」ということはよくあるのです。

家紋をちらした襖《ふすま》、アイデアとしてすごく良いです。
そういうパターンを作ってトーン化するの、デジタルだと難しくないですからね。

えーと、布袋様…? 富貴繁栄の祈願?
龍野城

俯瞰ぎみの写真がマンガに使いやすいかも…と思って撮るのですが、役立ったことはあんまりありません。
龍野城

再建なのにこういうのがある。参考にしたなにかがあるんですかね。フェイク生活感。
龍野城

ガラス戸なんかもあったりして本格復元からは遠いのだけど、別に腹が立つわけでもなく。
龍野城

ゆるさが心地いいんですよね。本格にこだわりすぎて維持できなくなるよりよっぽどいい。

こういうのも資料のつもりで撮るけど、役に立ったことはないですね。
龍野城

マンガの背景資料としては、結局こういうのがいちばん役に立ちます。
龍野城

パノラマで魚眼っぽくしちゃうとトレス元としては使えないですけど。
龍野城

玄関から外を見る
龍野城

外観。規模は小さいですね。龍野藩クラスの本丸御殿なら、もうちょっと大きいんじゃないかと思いますが。
龍野城

うしろが山でビルとか見えないのがいいですね。見えてもそんなに嫌じゃないですけど。
龍野城

隅櫓。これも再建。復元度が高いのか低いのかは私にァわかりません。
龍野城

犬走り……でもないか。
龍野城

1672 年に城を再建ってことは、当時の流行りである軍学を取り入れてても不思議はないのでしょうが、説明されてないってことはそういう記録が無いってことなんでしょうね。
願い譜代とはいえ脇坂氏と言えば賤ケ岳七本槍ですから、徳川を刺激しないように苦労があったのかもしれません。

桜の季節ならエエ絵になるんでしょう、というかなるのです。
龍野城

龍野城といったらココ!という絵ハガキ構図。
龍野城

絵ハガキに採用されてる構図で撮るというのは大事です。プライベートな写真にオリジナリティなんか要らんのです。ド定番構図は正義なのです。

結局、パノラマ合成しないほうが自然で良いというね。「自然に還れ」(ルソー)
龍野城

でもパノラマ合成やっちゃうの。テヘヘ…
龍野城

なかなか、悪くないお城でした。

下調べもしておらず、
「島津と縁がなくもないから、いちおう見とくか」
くらいの軽い訪問でしたが、再訪したくなりました。

聚遠亭や白鷺山の展望台に行きたいですね。中世龍野城(龍野古城)の遺構の残りも良さそうなのでなんとかしたいです。

 > 龍野古城 | 西播磨の山城 https://www.nishiharima.jp/yamajiro/tatunokojo_page

龍野古城ですよ。カタカナで書いたら、タツノコ・ジョー。(←だからなに?)


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